ニュースの概要
フランスの金融大手BPCE傘下のナティクシスが、日本でM&A助言の事業を始めるため、独立系の産業創成アドバイザリー(SSA)を買収することで合意した。全株式を取得する計画で、SSAの社員は2027年1月にナティクシスの日本事業へ合流する。業務の開始には金融庁の承認が前提となる。日本では企業の再編や事業承継を目的としたM&Aが増えており、海外の金融機関が成長市場として日本への関与を強めている流れの一つといえる。自前で人材を採用するのではなく、既存の助言会社ごと取り込む手法を選んだ点が特徴である。
引用元: 仏ナティクシス、日本のM&A助言会社を買収し事業参入へ(Bloomberg)
分析・見解
人を雇うより会社ごと買う、参入の近道
海外の金融機関が日本でM&A助言を始めるとき、最大の壁は人である。顧客企業との信頼関係は、担当者個人に強く結びついている。数人の専門家を引き抜いても、案件の紹介元となる経営者や銀行との関係までは持ってこられない。
今回の買収は、その関係ごと取り込む選択だ。SSAの社員が2027年1月にまとめて合流する形なら、案件の引き継ぎも途切れにくい。立ち上げに数年かかる採用型より、時間を買う発想だといえる。
独立系の助言会社が買われやすい理由
独立系の助言会社は、特定の銀行や証券会社の系列に縛られない。そのため、売り手にも買い手にも中立の立場を示しやすい。一方で、海外の買い手候補を紹介する力や、大型案件で求められる資本力には限りがある。
海外の大手と組めば、この弱点を補える。たとえばナティクシスの欧州や米州の顧客網を使えば、日本企業の売却先を国外に広げられる。逆に日本企業が海外企業を買う案件でも、現地の情報が手に入りやすくなる。双方に利点があり、買収が成り立つ土台になっている。
日本のM&Aが国内完結でなくなる流れ
日本のM&Aは、後継者不足を背景にした事業承継型が中心だった。中小企業の売り手と買い手を、国内の仲介会社がつなぐ形である。ところが近年は、上場企業の事業切り出しや、物価高と円安を受けた海外企業による日本企業の買収が目立ってきた。
案件が大きくなるほど、助言する側にも国際的な視野が要る。海外の買い手の意思決定の速さ、契約書の書き方、価格の考え方は日本と違う。そこを橋渡しできる助言会社が求められている。外資系の参入は、この需要に応えようとする動きの一部である。
規制の承認と報酬競争という見えにくい論点
業務開始には金融庁の承認が前提となる。承認が遅れれば、社員の合流時期や案件の受注にも影響が出る。ここは計画どおりに進むと決まったわけではない。
もう一つ見落とされがちなのが、報酬の問題だ。日本では成功報酬が中心で、依頼側が支払い額を比べにくい面がある。外資系が入れば、報酬の体系や利益相反(=助言する側が売り手と買い手の双方から報酬を得るなど、立場が衝突すること)の扱いが比べられる機会が増える。市場全体の透明性が上がる可能性がある。
ビジネスへの影響
売り手側の経営者が取るべき準備
事業承継を考える経営者にとって、助言会社の選択肢が増えることは悪い話ではない。ただし、選択肢が増えるほど、比べる目が必要になる。まず確認したいのは、報酬の仕組みと契約期間である。着手金の有無、成功報酬の計算方法、解約後にも報酬が発生する期間を、契約前に文書で確かめておく。
あわせて、自社の企業価値を自分でも把握しておきたい。助言会社が示す価格が高いか低いかを、判断できなくなるからである。複数社から意見をもらうだけでも、交渉の姿勢は大きく変わる。
買い手や金融機関が見直すべき視点
事業拡大のために買収を考える企業は、海外の買い手候補が増えることを前提に動く必要がある。条件が同じなら、資金力のある海外勢が先に動く場面も出てくる。社内の意思決定を早め、デューデリジェンス(=買収前の企業調査)の体制を整えておくと、機会を逃しにくい。
地方銀行や税理士にとっても無関係ではない。取引先の相談を受ける立場として、どの助言会社にどの案件をつなぐかを説明できる必要がある。国内の仲介会社と海外系の助言会社の得意分野の違いを、知っておくことが信頼につながる。