ニュースの概要
日本経済新聞によると、政府は中小企業の事業承継を支えるM&A(企業の合併・買収)の仲介業者について、悪質な業者を市場から締め出すための法整備を検討している。報じられた柱の一つが、問題が疑われる業者に対して行政が強制的に調べられる権限である。後継者のいない中小企業が増え、M&Aは廃業を避ける有力な手段になった。一方で、高額な手数料や、売り手に不利な助言、買い手との利益相反をめぐる不満も出ている。現在は登録制度と指針による自主的な対応が中心で、実効性に限界があった。今回の動きは、その運用を一段厳しくする試みと言える。
引用元: 中小の事業承継、悪質なM&A仲介排除へ 強制調査など法整備検討(日本経済新聞)
分析・見解
登録制度だけでは届かなかった調査の力
中小企業庁は2021年に、M&A支援機関の登録制度を始めた。仲介会社や助言会社が、国の指針を守ると約束して登録する仕組みである。国の中小M&Aガイドラインも2023年に改訂され、手数料や利益相反の説明が求められるようになった。ただし、中心は自主的な取り組みだった。違反の疑いがあっても、国が帳簿や契約書を強制的に調べる手段は限られていた。
今回の検討は、この「調べる力」の穴を埋める動きと読める。行政に強制力があるかどうかで、ルールの重みは大きく変わる。金融の分野では、当局が立入検査をできるため、業者は日頃から記録を整える。M&A仲介にも同じ緊張感が生まれれば、業界の振る舞いは変わるだろう。
問題の根は、成功報酬と利益相反の設計にある
よく指摘されるのは、売り手と買い手の両方に同じ会社がつく「双方代理」の構造だ。両方から手数料を受け取れるため、成約が早いほど収入は増える。売り手にとって最善の価格より、まとまることが優先されやすい。
報酬の決め方も分かりにくい。売却額に連動するレーマン方式(=取引額に応じて料率が下がる計算法)では、基準額に負債が含まれる場合がある。さらに最低報酬が決まっていると、小さな案件では手数料の負担が重くなる。
不動産の仲介と比べると差が見える。不動産は宅建業法で免許や重要事項の説明が義務づけられ、報酬にも上限がある。M&A仲介には、同じような業法がない。
規制を強めた先に起こりうる二つの副作用
厳しくすれば解決するわけではない。第一に、小さな仲介会社が記録管理などの負担に耐えられず、撤退する恐れがある。数百万円から数千万円の小さな案件は、もともと採算が合いにくい。担い手が減れば、売り手の選択肢が狭まる。
第二に、ルールの線引きがあいまいだと、真面目な会社まで萎縮する。リスクのある説明を避け、結局は売り手への情報が薄くなる可能性もある。後継者不在の企業が5割前後に上るなかで、市場の入口が狭くなるのは避けたい。
摘発より先に必要な、手数料を比べられる仕組み
強制調査は、問題が起きたあとの対応である。ところが、売り手の経営者は会社を一度しか売らない。失敗から学ぶ機会がなく、相場もわからないまま契約書に署名しやすい。ここに情報の差がある。
そのため、摘発の強化と並べて、手数料体系や利益相反の有無を共通の様式で開示させる仕組みが欲しい。たとえば携帯電話の料金表のように、複数社を同じ物差しで比べられれば、悪質な業者は自然に選ばれなくなる。売り手側に、早い段階で第三者へ相談する習慣が根づくことも大切だ。罰則と比較のしやすさ、両方がそろって初めて、中小の事業承継は安心できるものになる。
ビジネスへの影響
売り手の経営者が契約前に確かめる五つの点
最初に確かめるのは費用の内訳だ。着手金、中間金、成功報酬、最低報酬を一覧にして並べる。二つ目は、報酬の基準額が株式の価値なのか、負債を含む金額なのかである。この違いだけで、手取りが数百万円変わることがある。
三つ目は専任契約(=他社に頼めない契約)の期間と解約条件だ。長すぎると、条件が悪くても動けない。四つ目は双方代理の有無、五つ目は買い手候補の選び方である。いずれも書面で説明を求め、答えがあいまいなら契約を急がない。
仲介会社と買い手が今から整えておく備え
仲介会社は、手数料の算定方法と利益相反の説明を、契約前に文書で渡す運用に切り替えたい。面談の記録、買い手候補への提案履歴、価格の根拠資料も残しておく。強制調査が入っても説明できる状態にしておくことが、そのまま顧客からの信頼になる。
買い手側にも注意点がある。仲介会社から届く案件情報が、売り手の事情を十分に反映しているとは限らない。財務資料を自分で確認し、簿外債務(=帳簿に載っていない借金)や取引先との契約の状況を、基本合意の前に調べる。急かされる案件ほど、時間をかけて確かめる価値がある。
法整備が決まるまでの間にできる三つの行動
一つ目は、事業承継・引継ぎ支援センターなど公的な窓口に、早めに相談することだ。費用がかからず、仲介会社を使うかどうかの判断材料も得られる。二つ目は、依頼先が国の登録を受けた支援機関かを確かめ、公表されている実績や手数料の情報を見比べること。三つ目は、企業価値の試算を仲介会社とは別の税理士や会計士にも依頼し、提示額が妥当かを検証することである。
制度が整えば環境は改善するだろう。しかし、売却の時期は法律を待ってくれない。