ニュースの概要
セレンディップ・ホールディングスは、日本自動車部品工業会(JAPIA)東日本支部の講演会「M&A、事業承継」に登壇したと発表した。同社代表の竹内在氏と、グループ会社サーテックカリヤの会長である竹内弘一氏が、買い手と売り手それぞれの立場から実体験を語った。売り手側は第三者への承継を選んだ経緯と、承継先に求めた条件を紹介した。買い手側は、承継後に進めた経営改革や製造現場の改善、会社を成長させる取り組みを説明したという。同じ舞台に両当事者が立つ形で、M&Aの成否を分けた要因を共有した点が特徴である。
引用元: JAPIA講演会で事業承継M&Aの実例を紹介(Livedoor News)
分析・見解
売り手と買い手が同じ壇上に立つことの意味
事業承継M&Aの情報は、これまで仲介会社の成功事例や、買い手側の発表に偏りがちだった。売り手の経営者が自らの言葉で「なぜ身内でなく第三者を選んだのか」を語る場は、実はそれほど多くない。今回の講演は、取引の両側の視点を一度に聞ける点に価値がある。
自動車部品業界の経営者は、親から子へ継ぐのが当たり前という意識が強い。そのため、外部に会社を託すことへの心理的な抵抗は大きい。同じ業界団体の場で先輩経営者が語ることで、その抵抗感が和らぐ効果が見込める。
自動車部品業界で承継問題が深刻化する構造的な理由
自動車部品の中小メーカーは、完成車メーカーを頂点とする多層の取引構造の中にある。電動化が進めば、エンジン関連部品の需要は減っていく。設備投資の負担は重いのに、将来の売上は読みにくい。こうした状況では、子どもに継がせることを躊躇する経営者が増えて当然である。
帝国データバンクの調査では、国内企業の後継者不在率は近年およそ5割前後で推移している。製造業は設備や技能者を抱えるため、廃業すると取引先の部品供給にも影響が及ぶ。事業を残すこと自体が、サプライチェーン(=部品の供給網)を守る意味を持つ。
承継先に求める条件が、売却価格より先に決まる
売り手が第三者承継を選ぶとき、最初に確認するのは価格ではなく従業員の雇用と取引先との関係である。この順序は、M&Aを検討する経営者が見落としやすい点だ。価格を先に議論すると、条件交渉が消耗戦になり、本来守りたいものが後回しになる。
講演で語られた承継先への条件も、こうした非価格の要素が中心と考えられる。買い手が現場を尊重し、これまでの技術を活かす姿勢を示せるかどうかが、成約の分かれ目になる。
本当の勝負は契約後の100日間にある
M&Aは契約を結んで終わりではない。買い手側の登壇者が語った経営改革や現場改善は、いわゆるPMI(=買収後の統合作業)にあたる。統合に失敗すると、優秀な技能者が辞め、せっかくの技術が流出する。
製造業のPMIでは、まず現場の無駄を見える化し、小さな改善を積み重ねて信頼を得る手順が有効である。買い手が一方的に自社流を押し付けると反発を招く。逆に、前経営者が一定期間会長として残り、橋渡し役を務めると、現場は落ち着きやすい。今回のように前経営者が会長を務める形は、その好例といえる。
ビジネスへの影響
譲渡を考える経営者が今から整えておくべきこと
売り手側の経営者は、売却の意思が固まってから動くのでは遅い。決算書の整理、個人資産と会社資産の分離、主要取引先との契約内容の確認などを、2〜3年前から進めておくと交渉が有利になる。
あわせて、「何を守りたいのか」を紙に書き出しておくことを勧める。雇用の維持、社名の存続、取引先との関係など、優先順位を決めておけば、買い手候補との面談で判断がぶれにくい。
買い手企業が承継後の最初の半年で取り組むべきこと
買い手側は、最初の半年で成果を急がないことが肝心である。まず現場に足を運び、従業員一人ひとりと話す時間を確保する。そのうえで、在庫の置き方や段取り替えの時間など、すぐ効果が出る改善から着手する。
数字の目標を示す際は、前経営者と相談しながら現実的な水準に設定する。小さな成功体験を共有できれば、統合への協力が得られやすくなる。
業界団体や公的支援を活用して相談先を広げる
同業の経営者が集まる団体の講演会や勉強会は、実例に触れられる貴重な機会である。仲介会社だけに相談すると、手数料の仕組み上、成約を急ぐ提案に偏ることがある。商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターなど公的な窓口も併用し、複数の意見を比べるとよい。